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ご長寿よろず診察室 神経内科のお話し その5

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第5回:物忘れ
担当ドクター 北村伸先生 (日本医科大学武蔵小杉病院 内科)


今回は、物忘れのある二人の患者さんの話です
生活に支障のない物忘れ
 ひとりは、4年前から高血圧症で通院している内田さん(仮名)という78歳の男性です。奥さんと娘夫婦と一緒に住んでいます。1ヶ月前の外来で、内田さんは、人の名前が出てこなかったり、何かをしようと思って居間に行ったときに何をしにきたのか忘れてしまうことがあると訴え、痴呆になったのではないかと心配をしていました。

 内田さんの最近の生活の様子を本人と奥さんからききました。以前と同じように生活をしており、友人との付き合いも今までどうりで、物忘れはあるが生活には支障がないということでした。
生活に支障のある物忘れ
 もうひとりは、吉川さん(仮名)という77歳の女性です。吉川さんは、息子夫婦と孫と住んでいます。吉川さんは、息子さんと一緒に物忘れについて診察を希望して1ヶ月前に受診してきました。吉川さん自身は、特に悪いところがあるとは思わないが、息子が一緒に病院に行こうというので、健康診断のつもりで来たと言っていました。物忘れはありますかと尋ねると、少しはあると答えました。しかし物忘れで困っていることはないと言っていました。

 吉川さんが検査に行っている間に息子さんから話を聞きました。日常の生活は以前と変わりなくしていますが、財布やお金をお嫁さんが盗んでいると言うことが時々あるので、病院に連れて来たということでした。もちろんお嫁さんが盗んでいるのではなく、しまった場所を忘れて見つからず、盗られたといっていたわけです。そして、孫の大学卒業のお祝いをかねて家族でレストランで食事をした翌日には、そのことを全く忘れており、卒表祝いをいつするのかと言っていたエピソードのあることもわかりました。
 この二人の物忘れは歳のせいでしょうか?
 内田さんの物忘れは、生活をしていく上で何も支障がないので、いわゆる歳をとったことによる正常なものとしてよいと思います。しかし、吉川さんの物忘れは、正常な範囲のものとはいえません。自分でしまった事やその場所を忘れてしまい、お嫁さんのせいにしています(物盗られ妄想)。そして、家族でレストランに行ったことを完全に忘れており、歳のせいによる物忘れとは言えません。このような物忘れがあると人との付き合いや社会生活をしていく上で支障になります。吉川さんのような物忘れを歳のせいにしてはいけません。病気の症状ですから、原因を見つけて治療をする必要があります。
 表:歳によるもの忘れと病気のもの忘れの違い
   歳によるもの忘れ  病気(アルツハイマー型認知症)によるもの忘れ
 生活の支障  なし  あり
 悪化  なし  あり
 ヒントで思い出す  あり  なし(全くわすれている)
 もの忘れの自覚  あり  あると言うが病気とは思っていない
 もの盗られ妄想  なし  時にあり
 歳による物忘れは、脳の老化によっておきたものと考えられます。この物忘れは、生活に支障を来すことはなく、進行してくることはありません。その一方で、アルツハイマー型痴呆のような病気の物忘れは生活に支障を来し、ゆっくりと悪化していきます。歳による物忘れは、体験の全てを忘れていることはありません。何かのヒントで思い出すことができます。アルツハイマー型認知症の物忘れは、体験全体を忘れています。約束したことを全く覚えていなかったり、2−3日前に親戚が訪ねてきたことを全く覚えていないというのがこれに相当します。吉川さんが家族でレストランに行ったことを全て覚えていなかったのも体験全体を忘れていたからなのです。
 アルツハイマー型認知症の物忘れは、本人に物忘れがあって支障があるという自覚がありません。物忘れがありますかときけば、あると言うかもしれませんが、深刻味がなく病気の症状とは思っていません。ですから、痴呆の早期発見のためには、周囲にいる人が病気の症状である物忘れに気づいて上げることが必要になります。
 次回はこの吉川さんのその後の話をします。
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