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ご長寿よろず診察室 神経内科のお話し その6

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第6回:アルツハイマー型痴呆
担当ドクター 北村伸先生 (日本医科大学武蔵小杉病院 内科)


物盗られ妄想のあった吉川さん(仮名)のその後の話です。
診察をしてみると
 吉川さんには、自分では大したことはないと思っていた物忘れと、探し物が見つからないと誰かが盗っていったいう妄想がありました。そして、過去のある体験全体を全く忘れているという特徴がありました。
 詳しく診察をしてみると、曜日と月は答えられましたが、年と日にちが判りませんでした。言葉を3つ覚えてもらった直後には3つとも言うことができました。100から7ずつ引いてみてくださいと言ったところ93、86、79、72、65まで答えられました。その後にさっき覚えてもらった3つの言葉を思い出してもらったところ1つも答えられませんでした。立方体の模写をしてもらったところ正しく書くことができませんでした(図1)。
     
      
      医師: 「3つの言葉を覚えて下さい。


      石川さん:「さくら、ねこ、でんしゃ」



 
     医師:「100から7ずつ引いてください」


     石川さん:「93、86、79、72、65」

     医師:「さっき覚えてもらった3つの言葉を
        言ってみてください」

    石川さん:「???・・・・・ 」
    医師:「この立方体を模写してください」

                                       
      
      図1 
                                                                       
 以上のことから、吉川さんには失見当識(年の日がわからない)、記憶障害、そして構成失行(立方体の模写ができない)の有ることがわかりました。
認知症 
 吉川さんには、記憶障害や構成失行が有り、生活に支障を来していますから、認知症があると診断をしました。 

 認知症を来す病気はたくさんありますから、次にその原因の鑑別を行いました。神経学的な診察では、麻痺や感覚障害などの異常はありませんでした。採血をしてみましたが、異常はありませんでした。脳のMRI検査をしたところ、脳腫瘍や脳梗塞などの異常はありませんでしたが、軽度の脳の萎縮を認めました(図2)。特に側頭葉の内側の萎縮がありました。SPECT検査で脳血流を調べたら、両側の側頭葉外側、頭頂葉外側、頭頂葉内側、そして後部帯状回に血流低下が検出されました(図3)。
以上の結果から、吉川さんは、アルツハイマー型痴呆と診断されました。
   
  図2:MRI軽度の委縮がある。

  黄色の矢印は側脳室下角の拡大を示しています。これは記憶と関係のある海馬を含む側頭葉内側の委縮
 (赤い矢印)を示しています。

     図3:MRIの写真の上に脳血流が低下ている領域を示した。

  右にあるカラーバーに示されているように、赤いほど脳血流が低下している。両側の側頭葉外側、頭頂葉外側 、頭頂葉内側、そして後部帯状回に血流低下が認められる。
 アルツハイマー型認知症とは
 記憶障害がいつとはなしに始まり、ゆっくりと悪くなってきます。記憶障害や失語、失行、失認、実行機能障害などにより生活に支障があります。しかし、麻痺や感覚障害のような異常はなく、血液検査でも異常はありません。脳のCTやMRIでは脳の萎縮以外の異常はなく、脳腫瘍や脳血管障害などの物忘れを起こすような脳の病変は認められません。このような時にアルツハイマー型認知症が最も疑われます。SPECT検査で、吉川さんのような脳血流低下所見があれば、アルツハイマー型認知症を支持する証拠となります。 
 アルツハイマー型認知症の人の脳では何が起こっているのか
  アルツハイマー型認知症の原因はまだ分かっていません。脳を調べると老人斑と神経細胞に神経原線維変化というものが生じています。老人斑にはβアミロイドという物質が沈着しています。そして、脳の中でいろいろな情報を伝える神経伝達物質というものが減っています。特に記憶に関係のあるアセチルコリンという神経伝達物質が減っています。
 アルツハイマー型認知症の治療は
  病気を完全に治す治療法はまだありません。しかし、認知機能をある程度よくしたり、病気の悪化を遅らせる薬があります。アセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼという酵素の働きを抑えて、脳のアセチルコリンを増加させる塩酸ドネペジル(アリセプト)がその薬です。吉川さんにも塩酸ドネペジルを服用してもらうことにしました。
 
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