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ご長寿よろず診察室 神経内科のお話し その18

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第18回:性格が変わってしまった夫
担当ドクター 北村伸先生 (日本医科大学武蔵小杉病院 内科)


 認知症の青木さん(仮名)の話をします。青木さんは68歳の男性で、奥さんと二人で生活しています。定年まで電車の運転士をしていました。退職した後は、趣味の写真撮影をしたり、将棋会館に出かけて友人と将棋をしたり、長年飼っている犬の散歩をしたりして、毎日のんびりと過ごしていました。
奥さんから聞いたご主人の様子
 3年ほど前から、奥さんは夫の性格が以前と変わったようだと感じていました。以前はよくしゃべっていたのに,次第に口数が少なくなり、些細なことで怒るようになったと感じていました。2年前に奥さんは、将棋をする友人から、夫は自分が負けそうになると盤上の将棋の駒を手で混ぜてしまうので、会館には来させないでくれと言われています。1年半前には、近所のスーパーで万引きをして、注意されたエピソードがありました。その後も時々、買ってもいないものを持っていることがあり、奥さんは万引きをしないように数回注意をしたことがありました。そして、判で押したように同じ時間に毎日公園に犬を連れて出かけていき、迷子になることはないのですが、どんな天気であろうと行くので、奥さんは困っています。雪が降っているときに今日はやめたらどうかと言ったところ、突然怒りだし、奥さんが殴られたエピソードがありました。洗面,着替え,入浴,食事などは一人でできます。
青木さんの受診時の様子
 奥さんと外来に受診してきました。自分ではどこも悪くないと言っており、機嫌が悪そうでした。年月日は正確に答え、記憶障害も年齢相応の範囲でした。雑談をしながら観察をしていると、あまり考えている様子はなく、いい加減な答えをすることがしばしばありました。立方体の模写をしてもらおうとしたら、あんたがやりなさいと言われてしまい、やってくれませんでした。 
青木さんの症状について 
 青木さんの様子は、以前に話をしたアルツハイマー病の人とは違っているようです。アルツハイマー病は記憶障害で始まり、年月日がわからなくなりますが、青木さんにはこのようなことはなく、怒りっぽくなり、性格が以前と変わってしまったことで始まっています(性格変化)。将棋で負けそうになると駒を手で混ぜてしまうことや、万引きをしてしまうなど、行動を抑制することができなくなっています(脱抑制)。天気がどんなに悪くても毎日犬を連れて出かけていくと言う判で押したような同じ行動をすることもみられます(常同行為)。雑談中にいい加減な答えをしたり、立方体をあんたが書きなさいと言うなどの考えることをしない(考え無精)ということもみられています。 
青木さんの脳をCTスキャンとPETで調べてみました 
 CTでは、前頭葉と側頭葉に萎縮が認められました。PETでも前頭葉に脳血流と脳酸素代謝の低下が認められました。(図) 
 
 CT                    

脳血流量             

脳酸素
消費量
         
      

図: 青木さんのCT、脳血流量と脳酸素消費量のイメージ
   前頭葉で脳血流と代謝は低下しています(矢印)。
診断は 
  青木さんの病気は前頭側頭型痴呆と診断しました。

 前頭側頭型痴呆は前頭葉と側頭葉に病変があり、青木さんのように性格変化で始まり、行動に抑制が利かなくなって、暴力や万引きなどの反社会的行為がみられることもあります。そして、自分や周囲への関心が早くからなくなり、同じ行動を繰り返したり言ったりするなどの滞続症、考え無精、自発性低下などがみられます。アルツハイマー病と違って、時間や場所などの見当識と記憶は、病気の始まりには保たれています。前頭側頭型痴呆はアルツハイマー病に次いで多いとも報告されています。ピック病という病気もこの中に含まれます。

 画像検査では、青木さんのように前頭葉と側頭葉の萎縮と脳循環代謝の低下が認められます。

 原因は不明で。まだ治療薬もありません。治療は介護が中心になります。
 奥さんへのアドバイス
  介護保険の申請をしていないということであったので、まずその申請をするように話をしました。そして、万引きなど金銭に関わる問題が今後も考えられるので、成年後見制度について話をしました。

 成年後見制度のことや認知症の人の運転免許についてなどは、ご長寿よろず診察室で、もう少し詳しく話をしていこうと思っています。
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