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ご長寿よろず診察室 神経内科のお話し その31

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第31回:急に来院しなくなった70歳女性
担当ドクター 北村伸先生 (日本医科大学武蔵小杉病院 内科)


 今回は、今から8年前に経験した患者さんについて話をします。8年前ですから、私が武蔵小杉病院に来る前に働いていた病院での話です。

 患者さんは、70歳で大坂さん(仮名)といいます。ご主人は亡くなっており、一人で生活をしていました。大阪さんは、高血圧と高脂血症があり、4週間毎に規則正しく通院をしていました。病院へは、地下鉄に乗って来ていました。当時は、診察は予約制ではなかったので、患者さんは、4週間分薬が処方されれば、薬のなくなる4週後に自ら来院をしていました。大坂さんは、診察のときによく自分の飼っている犬についての話をしていたので、患者さんの中でもなんとなく記憶に残っていました。
診察予定日になっても受診してこない
 ある日、大阪さんが診察に来ていないことに気づきました。何か受診できなくなった事情でも起きたのではないかと思っていました。ところが、大坂さんは、何もなかったように、受診をしてきました。診療録を見ると、前回の来院から10週間ぶりでした。体の具合が悪かったのですかと尋ねても、なんともなかったという返事でした。受診予定日から6週間遅いので、薬が足りませんでしたかと尋ねても、「そうですか、そんなことはなかったけれども。」という返事でした。

 診察でも上下肢の麻痺はなく、感覚障害もなく、特に異常はありませんでした。話し方も、いつもと同じようで、特におかしなところはありませんでした。年月日や記憶について少し検査をしたいので、いいですかと尋ねましたが、今日は忙しいから、結構ですといわれてしまい検査することはできませんでした。頭のCT検査については、納得してくれたので、予約を取ってもらい、その日は帰りました。

 5週間後に、来院をしてきましたが、CTの検査は、受けていませんでした。薬も前回4週間分処方をしたので、1週間分は足りなかったはずですが、大坂さんは、ちょうど薬がなくなったので病院に来ましたと言っていました。CTの検査を受けていないことについては、うっかりして忘れていたと言いました。また、忘れられても困るので、緊急ですぐにCT検査をしてもらいました。
CT検査をしてみると
     
     

   図: 大阪さんのCT(左)、脳血流(中央)、脳酸素消費量(右)のイメージ
      CTでは両側の視床に梗塞があり、その部位の脳血流と脳酸素消費量は低下しています。
視床梗塞による記憶障害 
 視床は記憶と関係があります。視床の梗塞で記憶障害が生じることはよく知られています。片側だけ視床に梗塞がおきたときは、記憶障害がないこともありますが、あっても短期間で改善することが多いと思います。両側性に梗塞が生じたときの記憶障害は、持続的なことが多いです。大坂さんのように、最近のことについての記憶障害が主体で、昔のことについては保たれています。

 記憶障害がいつとはなしに始まったときは、アルツハイマー型認知症が疑われますが、急に記憶障害が生じたときは、脳血管障害による可能性が高く、視床の梗塞によることもあるわけです。大坂さんは一人暮らしでしたが、通院していたことで、視床梗塞のあることが比較的早くわかりましたが、周りの人が記憶障害のあることが気づかなければ、そのまま放置されていたかもしれません。仕事もしていなくて、友人との付き合い程度の生活でしたら、歳をとって最近少し物忘れがひどくなったと言うぐらいで、終わっていたことも考えられます。

 物忘れがあり、以前とは違っていると感じられたら、是非かかりつけの先生に相談をしてみてください。
 
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