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ご長寿よろず診察室 神経内科のお話し その38

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第38回:嫁が自分のものを隠していると思いこんでいる77歳女性
担当ドクター 北村伸先生 (日本医科大学武蔵小杉病院 内科)


 飯田さん(仮名)は、77歳の女性です。3年前にご主人を亡くし、今は息子さん夫婦と暮らしています。息子さんは、緊張型頭痛があり、時々私の外来に受診をしてきます。その息子さんから、母がおかしな事を言うので困っているのだけどどうしたらよいのかと相談されました。
ありもしないことを言う
 半年前から、洗濯して置いておいた下着が無くなったり、買ってきて置いておいたものが無くなると、飯田さんが言うようになったそうです。そして、なかなか言わなかったそうですが、聞き出してみると、嫁が意地悪をして隠したり、盗っていると思っていることがわかりました。

 もちろん、息子さんはそんなことはあるはずがないと思ったのですが、妻に話したそうです。妻は、笑って、そんなことをする分けがないでしょうと言って相手にしなかったそうです。
嫁が意地悪をしている
 しかし、その後も飯田さんがありもしないことを言い、嫁を疑っている事が続いており、自分の知り合いや兄弟が家に遊びに来た時にそのことを話していることがわかったそうです。

 最初は取り合わなかった奥さんも、家族以外の人に話をしていることを知り、何とかしてくれと言うようになりました。
 妄想
  ありもしないことを言ったり、思いこんでいるというのは、妄想です。飯田さんは、嫁が盗っていると思っているので、もの盗られ妄想があると思われます。妄想はいろいろな病気や状態で認められます。その中でも、もの盗られ妄想は、アルツハイマー型認知症の人にしばしば認められます。自分で置いたところを忘れて見つからず、誰かが盗っていってしまったと思っているのです。飯田さんの場合は、洗濯物や買ってきたものだったのですが、財布であったり、お金であったりすることもよく見られます。盗っていった人は、身近な人であることが多く、認知症であることがわかっていないときは、家族の中でトラブルになることもあります。
 もの盗られ妄想は周辺症状
  記憶障害に基づいてこの症状が出現しており、認知症であっても全員にみられるものではなく、もの盗られ妄想は、認知症の周辺症状のひとつです。周辺症状というのは、認知症であっても必ず出てくるものではありませんが、環境、性格、対応の仕方などにより現れることがあります。

 例えば、記憶障害があって、ご飯を食べたことをすぐ忘れ、ご飯はまだかなどと何回も言いにくる場合、言われた人がいらいらして、さっき食べたでしょうと言ったとします。認知症の人は食べていないと思っているので、ご飯をくれないのかと言い、暴言や暴力を振るうかもしれません。この暴言や暴力も周辺症状です。

 周辺症状は、家族のように一緒に生活をしている人にとって負担になります。そして、対応の仕方を誤るとさらにひどくなり、介護をする上でも問題となります。

 もの盗られ妄想での犯人は、家族であることが多く、それも熱心に面倒をみてくれている人が多いとされています。しかし、病気によって出現していると理解されれば、うまく対応していくことが出来ると思います。
 飯田さんの場合
  飯田さんを診察した結果、軽度のアルツハイマー型認知症であることがわかりました。6ヶ月前までは、家族の誰も飯田さんが認知症であるとは思っていませんでした。もの盗られ妄想に気づいたことで、アルツハイマー型認知症であることがわかったわけです。
認知症は、もの盗られ妄想で発見されることもある 
  もの盗られ妄想があることで初めて医療機関を受診し、認知症と診断されることは珍しくありません。飯田さん以外にも私の患者さんの中で、もの盗られ妄想で受診した人はたくさんいます。盗られるものは、財布やお金のことが多い印象です。自分でおろしたことを忘れて、銀行から勝手にお金がおろされているという訴えもありますし、使ったことを忘れて、財布の中にお金を入れておくといつの間にか盗られてしまうという人もいました。お金以外では、車を処分したことを忘れて、駐車場に行って車がないので盗られたと何度も交番に訴えていた人もいましたし、古くなったので捨てたお気に入りの服が見つからず、孫が盗っていったという人や、ヘルパーさんがご飯やおかずを勝手に盗っていくという人もいました。
対応の仕方 
 もの盗られ妄想があって、財布など大事なものが見つからないときは、一緒に探してみることが良いと思います。見つけたときは、ここにありましたよと手にとって渡すより、認知症の人が自分で見つけて手に触れるようにした方がよいとされています。

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