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ご長寿よろず診察室 神経内科のお話し その42

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第42回:抑うつと歳による物忘れと思われていた男性
担当ドクター 北村伸先生 (日本医科大学武蔵小杉病院 内科)


 69歳の重田さん(仮名)が、奥さんに伴われて受診してきました。重田さんは、65歳で退職をし、現在は奥さんと二人で暮らしています。重田さんの仕事は、海外に出かけることが多く、定年を迎えるまでは、家にいる時間は少なかったそうです。退職後は、趣味の写真の整理などしたり、友人と会ったりして過ごしていたそうです。
物忘れが目立つようになった
 ところが、2年前よりしまった場所を忘れて捜し物をしていることが目立つようになってきました。友人と会う約束をしたことを忘れることが時々あり、1年前より、言葉が出てこないことがひどくなり、しゃべらなくなり、趣味の写真もしなくなってきました。

 奥さんは、テレビの番組をみて、夫がアルツハイマー型認知症になったのではないかと心配になり、病院に来ました
言葉の症状の始まりは
 重田さんは、診察室では、落ち着いて座っており、私の話も聞いており、簡単なことはわかっているようでしたが、時々2-3回言わないと理解してくれないこともありました。言葉が出にくいようで、流暢に話すことができませんでした。

 アルツハイマー型認知症の人では、物の名前が出てこないことがあり、あれとかそれというような代名詞が多くなりますが、しゃべり方は流暢で、重田さんの発語は、それとは違っていました。

 奥さんによく話を聞くと、言葉が出なくなったのは、1年前に急に意識が無くなり、近所の病院を受診した後からということがわかりました。その時には、脳のCT検査を行いましたが、異常はないといわれ、麻痺もなかったので、心配ないと思っていたそうです。しかし、そのあとから言葉がおかしくなったということでした。
気が沈んでいると思っていた
 重田さんは、退職前は家にいることが少なく、奥さんと一緒に何かしたり、会話することも多くはなかったようです。奥さんも今までしていた自分の趣味とやりたいことがあり、退職後もそれぞれ自分たちのやりたいようにしており、どちらかというとお互いに干渉しないようにしていたそうです。アルツハイマー型認知症のテレビ番組を見るまでは、夫は仕事一筋で生きてきて、退職をして、少し気分が抑うつ的になり、歳による物忘れがあると、奥さんは思っていました。
診察の結果
  診察をした結果、運動麻痺はありませんでしたが、運動性失語症(第21回)が疑われました。そして、計算力の低下、記憶障害、構成障害(第6回)のあることもわかりました。

 言葉の症状は、急に始まっており、脳血管障害が疑われます。頭のMRI検査を行ってみました。
 MRIの結果
  重田さんは右利きで、左側の前頭葉に脳梗塞のあることがわかりました(図)。この場所は、第21回のよろず診察室で話をしたブローカ領域と一致しています。重田さんの運動性失語は、1年前に脳梗塞を起こしたことによると考えました。
    

    図:重田さんのMRI (FLAIR) 左側の前頭葉に脳梗塞(矢印)が認められます
診断は
  言葉の症状や、計算がうまくできないのは1年前の脳梗塞によるものですが、2年前より始まった物忘れは、別の原因によるものと思います。構成障害もあり、アルツハイマー型認知症が疑われます。重田さんは、まずアルツハイマー型認知症を発症し、その後に脳梗塞を起こし、運動性失語症の症状が加わったと診断をしました。
 まとめ
  重田さんと奥さんは元々会話が少なく、脳梗塞を起こしていたことに気づかず、抑うつと歳による物忘れと奥さんに思われていたわけです。アルツハイマー型認知症の人でも脳血管障害を発症してもおかしくはありません。アルツハイマー型認知症と脳血管障害のことについては、別の機会に話そうと思いますが、脳血管障害を伴うアルツハイマー型認知症の人は多いことを覚えておいてください。重田さん夫婦のことから考えますと、日頃から会話をしたり、一緒に何かをすることが病気の早期発見につながるようです。
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