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「お酒とアルツハイマー病の関係」

Q:お酒を飲むとすぐ赤くなる人はAlzheimer病になりやすいのは本当ですか?
また、その予防には何をすれば良いのですか?

A:答えは「本当です」。
ただし、その「アルツハイマー病になりやすい性質」は単独ではそんなに強いものではありません。
 アルコール(エタノール)代謝にはアルコール脱水素酵素とアルデヒド脱水素酵素の2種類の酵素が必要です。アルコール脱水素酵素はエタノールをアセトアルデヒドに変化させ、次にアルデヒド脱水素酵素がアセトアルデヒドを酢酸に変化させて無毒化すると同時にエネルギー源として利用できるようにします。アセトアルデヒドは毒性が強く、顔を赤くする原因で、頭痛、吐き気などの二日酔いの原因でもあります。アルデヒド脱水素酵素は知られているだけで14種類の類似の酵素があり、その中のアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)と呼ばれる酵素がアセトアルデヒドを主に処理します。モンゴロイド(北アジア人)には、酵素活性のないALDH2の遺伝子をもつ人達がいて、その遺伝子はたったひとつの塩基が変化しただけです。日本では地域によって少しづつ違いますが、活性のない酵素の遺伝子をもつ人が平均約40%もいます。つまり、酵素不活性型ALDH2遺伝子をもつ人が「お酒を飲むとすぐ赤くなる人」ということになります。      
 ALDH2の酵素活性の有無を決定する遺伝子の一塩基を検出することが簡単ですから、ALDH2遺伝子の一塩基の違いとアルツハイマー病患者における頻度を調べてみました。65歳以上のアルツハイマー病患者447人と非痴呆の対照とする人447人のALDH2遺伝子を調べました。対照と患者の、男女比、地域、年齢を一致させ、他の要素によって影響されないように慎重に調べました。結果は、「ALDH2酵素欠損型の遺伝子を持つ人は酵素活性型の遺伝子をもつ人よりも1.6倍高く、統計的には99.9%確かである」という結果が得られました。 
 「1.6倍アルツハイマー病にかかりやすい」という数字はそんなに大きな数字ではなく、むしろ「頑固である」、「社交的でない」という性格的な因子の方が、アルツハイマー病になりやすさは強いと言えます。ただし、「頑固である」とか、「社交的でない」という見かけ上のことでは病気の原因として研究対象とすることはむずかしいのは明らかです。その点、ALDH2という特定の遺伝子変化を対象にすればアルツハイマー病のかかりやすい原因を研究することが可能であるという点でたいへん重要な発見であると思われます。また、「頑固や社交的でない」というのは、アルツハイマー病にかかりはじめの結果かもしれませんので、原因か結果かという堂々回りになってしまうかもしれません。その点、遺伝子の違いと発症率の関連を明確にすることははいへん重要です。
 前にも述べたように、1.6倍という数字はそんなに大きな数字ではなく、結果そのものを疑問視される方もいらっしゃると思いますので、さらに慎重に研究を進めました。まず、すでに明らかにされている因子との相乗効果です。アポリポ蛋白E(APOE)という蛋白の遺伝子の多型(個人差)で、APOE4型の場合にはアルツハイマー病が3倍もなりやすさが異なるとうことはすでに明らかにされています。ALDH2酵素不活性型とAPOEの遺伝子型を組み合わせて解析すると、APOE遺伝子とALDH2遺伝子の相乗効果が認められました。つまり、APOE遺伝子がAPOE4型をもち、酵素不活性ALDH2遺伝子をもつ人はさらにアルツハイマー病に罹りやすいということです。特に、APOE4型を両親から受け継いでいるホモの場合で、ALDH2酵素不活性型の人はそうでない場合に比べて、30倍もアルツハイマー病に罹りやすいという結果がでました。15倍程度アルツハイマー病に罹りやすいという数字はほとんどアルツハイマー病になってしまうということを意味しますので、30倍の場合はほとんど確実にアルツハイマー病にかかってしまうということです。ふたつの遺伝子型を調べることによって、アルツハイマー病の発症初期段階にアルツハイマー病を予測診断することに利用できるでしょう。初期段階では、アルツハイマー病の初期段階なのが、単なる一時的老化現象かを判定するのが困難なので役立つと期待されます。


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最終更新日
09.02.03


 さらに、すでに発症しているアルツハイマー病患者でALDH2遺伝子とAPOE遺伝子を比較しました。そして、不活性型ALDH2遺伝子とAPOE4の相乗作用によって アルツハイマー病の発症年齢が低下することがわかりました。今までの研究は患者と対照の比較でしたが、この場合患者間の比較です。対照の人達に何らかの片寄りがあった場合は、まちがった結果がでる可能性もありますので、この患者間の比較により発症年齢に影響がでるということは アルツハイマー病とALDH2の関連が明確であると言えるでしょう。  以上の結果より、ALDH2がアルツハイマー病発症に関わっていることは間違いないでしょう。特に患者と対照の遺伝子型の頻度を比較した患者対照研究だけで導き出した結果だけではないという点を強調しておきましょう。
 では、予防についてですが、残念ながら現段階では明確な結論をいうことはできません。ただ、飲酒に関しては、おそらく関係ないと思われます。根拠は、ALDH2遺伝子型とアルツハイマー病の関連では、男女間にほとんど差がなく、飲酒習慣は男女間では大きな差があるということです。つまり、アルツハイマー病になりやすさは遺伝子が決めていて、飲酒には関係ないということです。また、飲酒によって遺伝子型を変えることはできないことも当然です。
 ALDH2の役割については、当研究室において、培養細胞やトランスジェニックマウスを使って解析を始めています。予備的結果としては、ALDH2はアルコール代謝だけでなく、酸化ストレスの防御としても働いているということがわかりつつあります。この観点から考えると ビタミンEやCなどの抗酸化ビタミンなどが、効果があるのではないかと考えて研究を進めています。
  (2000年5月現在)