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「アルツハイマー、お酒に弱い人は要注意」


 お酒(エタノール)は、体内で「アルコール脱水素酵素」の働きによって、有毒なアセトアルデヒドに変えられ、ついで、「アルデヒド脱水素酵素」のはたらきによって酢酸になり無毒化される。アルデヒド脱水素酵素には17種類もの酵素があり役割分担して毒性の強い諸々のアルデヒド類の解毒にあたっている。このアルデヒド脱水素酵素のなかでもアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)とよばれる酵素がアセトアルデヒドを主に解毒する。アセトアルデヒドが、頭痛、吐き気、紅顔の原因であるので、ALDH2の働きが弱い人が「お酒に弱い人」である。モンゴル系アジア人の中にはALDH2遺伝子の一ケ所が変化した遺伝子(ここではALDH2*2と呼ぶことにする)を持つ人がいて、この遺伝子を持つ人のALDH2のはたらきは弱い。日本人では約40%の人がALDH2*2をもち、「お酒に弱い人」である。
 病気のかかりやすさは、ある程度遺伝子によって決められている。この関係は、大規模なヒト遺伝子の研究によって明らかにされようとしている。ただし、○○遺伝子を持つ人が××の病気に罹りやすいと研究結果でわかっても、自分の遺伝子を実際に調べない場合は自覚できないので他人事である。しかし、ALDH2の遺伝子に関しては、遺伝子を調べなくても自分はどちらに属するかお酒を飲めばたちどころに自覚できてしまう。ただし、ALDH2遺伝子は生涯変化することがないので、お酒をがんがん飲んで、飲めるようになったとしても、それは「慣れ」であって、本質的に強くなるわけではないことを強調しておこう。
 私たちが、アルツハイマー病患者と健常人、それぞれ500人の遺伝子を調べた結果、ALDH2*2(お酒に弱い人がもつ遺伝子タイプ)をもつ人はアルツハイマー病に1.6倍罹りやすい、という数字がでた。統計的には99.8%の確率でまちがいないという結論である。また、apoE4という遺伝子と組み合わせると30倍にも罹るやすく、発症年齢も5年早くなるという結果も得られた(1)。
 では、お酒に弱いタイプの人がアルツハイマー病に罹りやすいなら、お酒を飲んだ方が予防になるのか?それとも、飲まない方がいいのか?残念なことに、私たちの研究結果は、どうしたらよいかまでは教えてくれなかった。
 一般には、お酒に弱い体質の人はアルツハイマー病にかかりやすいとなると「ではお酒を飲もう」と考える人が多いようだ。お酒を好きな人は、「アルツハイマー病の予防」を飲酒の口実にした。また、お酒に弱い人では、無理してお酒を飲むことに努めた人も多いようだ。お酒がアルツハイマー病の予防薬のように誤解してしまった人も実際にかなりいたのである。これは、私にとって予想外の反響であった。
 ALDH2*2を持つ人が何故アルツハイマー病にかかりやすくなるかがわかれば、予防もできるようになるにちがいない。ここで、気づいたことは多くの生物が共通にALDH2遺伝子をもっていることである。では、馬やねずみはお酒を嗜むだろうか?お酒を嗜まない動物のために、アセトアルデヒドを解毒する酵素ALDH2が存在するのは何故だろう?アセトアルデヒドの解毒の他にALDH2遺伝子の役割があるのではないだろうかと考えた。
 まずALDH2酵素活性のない培養細胞を人工的につくり、活性酸素を発生させた時に4-ヒドロキシノネナール(4-HNE)という毒性の強いアルデヒドの一種が蓄積することを発見した。アルツハイマー病患者の脳では4-HNEが平均6倍も蓄積していることが知られている。さらに、4-HNEを加えるとALDH2活性のない細胞は極端に死にやすくなった(2, 3)(図1)。

結論だけを要約すると、お酒を飲んだ時には、ALDH2酵素はアセトアルデヒドを解毒する役割をもつが、通常は活性酸素によって自然に生じる4-HNE(などの)毒性アルデヒドを解毒する役割を果たしている。ALDH2酵素活性が低く、アルデヒド類を解毒する力が低下しているなら、活性酸素によって生じる毒性アルデヒドを生じさせないようにすることが大切である。つまり、ALDH2酵素の働きは弱い人は、活性酸素の作用を弱めるために抗酸化ビタミン(ビタミンEなど)を積極的にとることが大切になる(図2)。実際、ビタミンEがアルツハイマー病の予防になることもわかってきている。ちなみに、ALDH2の活性が弱い人が多量の飲酒をするとアセトアルデヒドの作用によって食道癌になりやすくなることもわかっている。無理にお酒を飲んでも、アルツハイマー病の予防になるどころか癌になりやすくなるので、特にお酒に弱い人(=ALDH2*2遺伝子を持つ人)の多量の飲酒は控えることが大切だ。(1938字)


日本医科大学
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医学研究科
加齢科学系専攻
細胞生物学分野

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(C)Copyright 2001, Dept. of Biochem. and Cell Biol.

最終更新日
09.02.03


文献
(1) Kamino,K. et al., (2000) Biochem Biophys Res Commun 273:192-196
(2) Ohsawa, I., et al. (2003) J Neurochem 21; 359-363
(3) Ohsawa, I., et al. (2003) J. Hum. Genet., 48;404-409

図1。ALDH2活性の低い培養細胞(K6,K11)を作成すると、対象細胞(PC12,V,E)に比べて4-HNE (10 μM)添加によって死にやすくなった(上段がHNE無添加、下段がHNE添加後)。K6,K11の下段の細胞はほとんどが死滅した。

図2。活性酸素が不飽和脂肪酸に作用すると過酸化脂質ができ、毒性の強い4-ヒドロキシノネナール(4-HNE)が自然に生じる。ALDH2は4-HNEを解毒し、抗酸化ビタミンは過酸化脂質にはたらきかけ、4-HNEを生じないようにする。
(2003年2月現在)